アリス君
強烈な個性はなにも外見や内面だけに表れるわけじゃない。
アリスという名前の女性が職場にいる。
彼女は日本人なので名字は普通。(仮に「田中」とする。)
下の名前で呼ぶ関係性ではないので用があるときは「田中さん」と声をかけるが、
そのたびに小さな違和感がわたしの中に静かに蓄積されていくことに気付いた。
このモヤつきは、一体…。
そこに100円が落ちてるのに拾わない気分。
自分の真後ろで大きな物音がしたのに振り向かないでいる気分。
同僚が同じエレベーターに乗っているのになにも話さないでいる気分…。
は。そうか。
名前にアイデンティティーが張り付きすぎて
「田中さん」と呼ぶこと自体を不自然に感じていたのだ。わたしは。
強烈な個性から、目を背けている。逃げている。
明日からは逃げずに下の名前で呼びかけてみよう。
アリスちゃん、だとピンク色のフリルがちらついて甘すぎるので
アリス君、とオジさんが呼ぶみたいに呼んでみたい。
「アリス君、そのネイル、かわいいね」
まじでオジさんみたいになった。